【考察】骨太の方針で、退職金が減るって本当?

  1. 退職金への課税制度の見直し

    政府が2023年6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、退職金への課税制度を見直す方針が打ち出されました。世の多くの会社員は戦々恐々だと思いますが、そもそもなぜこんな改革(?)が行われるのでしょうか。

  2. 現状の退職金への課税制度

    現在、退職金への課税制度には、3つの税優遇措置(退職所得控除、2分の1課税、分離課税)が存在しています。このうちの退職所得控除は、勤続年数「20年以下」と「20年超」とに分けて計算されます。具体的に見ていきましょう。まず、勤続20年以下の期間では、40万円×勤続年数(80万円以下の場合は、80万円)が控除されるのに対して、勤続20年を超えた期間は70万円×勤続年数と手厚くなるのです。要は、一つの会社に長くいる程、税優遇措置を受けられるということになります。逆に言えば、一つの会社に長く勤めなければこの優遇措置は受けられません。つまり、現行の退職所得控除が転職等の円滑な労働移動を妨げているというロジックです。

  3. 退職所得とは

    退職金(退職手当)とは、企業が退職者に支払うものです。退職所得とは、退職金のうちの課税される部分(課税退職所得)のこと。退職金から、上記の退職所得控除部分を差し引いて計算されます。具体事例を見ていきましょう。
    22歳大学新卒で採用された企業を38年間60歳まで勤め上げたAさんは、退職金として2,500万円を支給されました。Aさんの退職所得控除額は、40万円×20年+70万円×(38年―20年)=2,060万円。
    退職所得は、(2,500万円―2,060万円)×1/2=220万円。所得税は、(220万円×10%―97,500円)×102.1%=125,072円…①。住民税は、220万円×10%=220,000円…②。Aさんの退職所得課税は、①+②=345,072円となります。

  4. 勤続20年超の優遇措置がなくなると…

    骨太の方針により、勤続20年超の優遇措置がなくなり、すべての期間で退職所得控除が40万円になったとすると、Aさんの退職所得控除は、40万円×38年=1,520万円。退職所得は、(2,500万円―1,520万円)×1/2=490万円。所得税は、(490万円×20%―427,500円)×102.1%=564,102円…③。住民税は、490万円×10%=490,000円…④。Aさんの退職所得課税は、③+④=1,054,102円となり、優遇措置がある場合と比べると、1,054,102円―345,072円=709,030円の税額が増えることにとなります。

  5. 退職金課税制度見直しの方向性と防衛策

    課税対象となる退職金には、話題のiDeCoや小規模企業共済・企業年金等の一括受取も含まれます。逆に言えば、一括で受け取らずに一部を年金で受け取ることにすれば退職金課税への影響は軽微で済みそうです。また、今回の見直しは会社員の老後資金の重要な役割を果たす退職金に対する増税ではなく、労働市場改革を行うことが目的です。個人的には、勤続期間を通じた退職所得控除額の平準化(例えば、勤続年数に関係なく、年間50万円等)が行われると思いますが、どうでしょうか。結論を待ちたいと思います。

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