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退職後の支出

第15回 退職後の支出は現役時代と何が変わるか|増える支出・減る支出を整理する

1. はじめに:退職後の生活費は、現役時代より本当に減るのか

第14回では、老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いを整理しました。
退職後のお金を考えるときは、年金などの収入だけでなく、支出がどのように変わるのかを確認することも大切です。

  • 退職後の生活費は、現役時代より本当に減るのでしょうか
  • 会社を辞めれば、仕事関係の支出は減るのでしょうか
  • 医療費や介護費は、どのくらい意識しておけばよいのでしょうか
  • 退職後も税金や社会保険料はかかるのでしょうか
  • 現在の生活費をそのまま使って、老後資金を計算してよいのでしょうか

退職後は、通勤費や仕事関係費などが減る一方、趣味・旅行費、医療費、自宅の修繕費などが増える場合があります。
また、食費や日用品費、税金、社会保険料など、退職後も続く支出があります。

退職後の生活費は、現役時代の支出をそのまま使うのではなく、「減る支出」「増える支出」「続く支出」に分けて考えることが大切です。

この記事では、退職後に減る可能性がある支出、増える可能性がある支出、退職後も続く支出を整理します。

2. 結論:支出を「減る・増える・続く」に分けて考える

退職後の支出は、単純に「現役時代より減る」と考えるのではなく、次の3つに分けると整理しやすくなります。

 <退職後の支出の基本整理>

区分 主な支出 考え方
減る可能性がある支出 通勤費、仕事関係費、教育費、住宅ローン、生命保険料など 退職や家族構成の変化によって減る
増える可能性がある支出 医療費、介護費、趣味・旅行費、水道光熱費、自宅関連費など 年齢や時間の使い方によって増える
続く・見落としやすい支出 食費、日用品費、通信費、税金、社会保険料、住宅維持費など 退職後も支払いが続く

退職後の支出は、すべてが減るわけでも、すべてが増えるわけでもありません。
家族構成、住まい、健康状態、退職後の過ごし方などによって変わります。

退職後の生活費は、現在の家計を基準に、減る支出を差し引き、増える支出と見落としやすい支出を加えて考えます。

3. 基本知識:退職後の支出を理解する7つの視点

① 現在の支出を出発点にする

退職後の支出を考えるためには、まず現在の支出を把握する必要があります。
家計簿を細かくつけていなくても、次の資料から、おおよその支出を確認できます。

  • 銀行口座の入出金明細
  • クレジットカードの利用明細
  • 電子マネーやコード決済の利用履歴
  • 住宅ローンや保険料の明細
  • 税金や公共料金の通知書

毎月の支出は、直近1か月だけでなく、少なくとも3か月程度を確認すると、月によるばらつきを把握しやすくなります。
可能であれば、1年間の支出を確認すると、税金、旅行、家電の買い替えなども含めて整理できます。

退職後の生活費は、一般的な平均額ではなく、現在のご自身の家計を出発点にして考えましょう。

② 退職後に減る可能性がある支出を確認する

退職後は、現役時代特有の支出が減る可能性があります。
主なものは、次のとおりです。

<通勤・仕事関係の支出>

  • 通勤費
  • スーツ、靴、バッグなどの仕事用衣類
  • 昼食代、外食費、飲み会代
  • 仕事上の交際費
  • 資格取得や自己研鑽にかかる費用の一部

<家族構成などによって減る支出>

  • 子どもの教育費
  • 子どもへの仕送り
  • 住宅ローン
  • 生命保険の死亡保障にかかる保険料

ただし、通勤費を会社が負担していた場合は、退職しても家計の支出が減るわけではありません。
また、子どもの進学や独立の時期、住宅ローンの完済時期によっては、退職後も支出が続きます。
保険も、単に解約するのではなく、退職後に必要な保障を確認してから見直すことが大切です。

「退職すれば減るはず」と考えず、実際にご自身が負担している支出を確認しましょう。

③ 退職後に増える可能性がある支出を確認する

退職後に減る支出がある一方で、増える可能性がある支出もあります。

<医療・介護に関する支出>

  • 通院費や薬代
  • 入院時の自己負担
  • 差額ベッド代や交通費など
  • 介護保険サービスの自己負担
  • 福祉用具や住宅改修費
  • 親の介護に伴う交通費や援助

<余暇に関する支出>

  • 旅行費
  • 趣味や習い事
  • 外食費
  • 交際費

<自宅に関する支出>

  • リフォーム・修繕費
  • 家電の買い替え
  • バリアフリー対応
  • 在宅時間の増加による水道光熱費

高額療養費制度や介護保険制度によって負担が軽減される場合もありますが、自己負担がすべてなくなるわけではありません。
また、退職直後は自由時間が増え、旅行や趣味の支出が増える場合があります。

退職後に楽しむためのお金も必要な支出として、無理のない範囲で見込んでおきましょう。

④ 退職後も続く支出を確認する

退職しても、生活の基本となる支出がなくなるわけではありません。
主に次のような支出が続きます。

<基本生活費>

  • 食費
  • 日用品費
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 被服費
  • 交通費
  • 交際費

<住まいに関する支出>

  • 固定資産税
  • 火災保険料・地震保険料
  • マンションの管理費・修繕積立金
  • 自宅の維持・修繕費

<税金・社会保険料>

  • 所得税
  • 住民税
  • 健康保険料
  • 介護保険料

住民税は前年の所得を基に計算されるため、退職によって収入が減っても、退職直後は一定の負担が続く場合があります。
健康保険も、退職後は、任意継続、国民健康保険、家族が加入する健康保険の被扶養者となる方法などを検討することになり、加入する制度によって保険料や支払い方が変わります。

食費や日用品費などの基本生活費は、退職したからといって急に大きく下がるとは限りません。

⑤ 毎月の支出と年間の特別支出を分ける

退職後の支出を見積もるときは、毎月の生活費と年間の特別支出を分けて考えます。

<毎月の生活費>

  • 食費
  • 日用品費
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 保険料
  • 医療費
  • 趣味・交際費

<年間の特別支出>

  • 固定資産税
  • 自動車税・車検費用
  • 年払いの保険料
  • 旅行・帰省費
  • 冠婚葬祭費

<数年ごとに発生する大きな支出>

  • 自宅の修繕・リフォーム
  • 車の買い替え
  • 家電の買い替え
  • 子どもへの援助
  • 医療・介護に伴う臨時支出

毎月の生活費だけを確認すると、年に数回、または数年ごとに発生する支出を見落とす可能性があります。

年間の特別支出や大きなイベント費用は、毎月の生活費とは別に整理しましょう。

⑥ 年代によって支出の中身が変わる

退職後の支出は、毎年同じ金額、同じ内容が続くとは限りません。
例えば、次のような変化が考えられます。

<退職直後から60代>

  • 旅行や趣味などの活動費が増える
  • 再雇用の有無によって仕事関係費が変わる
  • 住宅ローンや子どもへの援助が続く場合がある

<70代以降>

  • 旅行や外出の支出が変化する
  • 医療費が増える可能性がある
  • 自宅の修繕やバリアフリー対応が必要になる場合がある

<さらに年齢を重ねた後>

  • 介護サービスの利用が始まる可能性がある
  • 住み替えや高齢者施設の費用が必要になる場合がある
  • 家族による生活支援が必要になる場合がある

これらは、すべての方に同じように起こるわけではありません。

健康状態、住まい、家族構成、暮らし方によって異なります。

退職後の支出は一定ではなく、年齢や生活状況に応じて中身が変わることを前提に考えましょう。

⑦ 支出の変化をキャッシュフロー表に反映する

退職後の支出を整理したら、その内容をキャッシュフロー表に反映します。
確認したいのは、次の項目です。

  • 現在の毎月の生活費
  • 退職後に減る支出
  • 退職後に増える支出
  • 税金・社会保険料
  • 年間の特別支出
  • 住宅修繕、車の買い替えなどのイベント費用
  • 物価上昇による生活費の変化

毎月の生活費には一定の増加率を設定し、大きな支出は発生する予定の年に計上します。
退職後の支出を時系列に整理することで、預貯金などの資産がいつ、どのくらい減るのかを確認できます。

一度作成した後も、物価、健康状態、住まい、家族構成などが変わったときは、キャッシュフロー表を見直しましょう。

4. 注意点:退職後の支出を少なく見積もりすぎない

注意点1:「現役時代の何割」という考え方だけで決めない

退職後の生活費を、現役時代の生活費の一定割合として見積もる方法もあります。
ただし、減る支出や増える支出は家庭によって異なるため、一定割合だけで判断すると実態と合わない場合があります。
現在の家計を基に、支出項目ごとに確認しましょう。

注意点2:平均額をそのまま自分の生活費にしない

家計調査などの平均額は、退職後の生活費を考える際の参考になります。
しかし、住まい、家族構成、自動車の有無、趣味、健康状態などによって、実際の支出は異なります。
平均額は目安として利用し、最終的にはご自身の家計から見積もることが大切です。

注意点3:税金・社会保険料を忘れない

退職後も、住民税、健康保険料、介護保険料などの支払いがあります。
特に退職直後は、前年の給与所得を基にした住民税や、退職後の健康保険料を見込んでおく必要があります。
生活費とは別に確認しておきましょう。

注意点4:医療費・介護費を一律に決めない

医療費や介護費は、健康状態や介護の状況によって大きく異なります。
平均額だけで決めず、一定の予備費を確保し、状況が変わったときに見直せるようにしておきましょう。

注意点5:一度決めた生活費をそのまま使い続けない

退職後の支出は、物価、健康状態、家族構成、住まいなどによって変わります。
また、夫婦で退職後の暮らし方、旅行、趣味、住まい方について考えが異なる場合があります。
夫婦で話し合い、定期的に生活費の見込みを見直しましょう。

5. 自分ごと化:退職後の支出を確認する10の項目

次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。

  1.  現在の毎月の生活費を把握しているか
  2.  退職後に減る支出と増える支出を書き出しているか
  3.  固定費と変動費を分けて確認しているか
  4.  退職後の税金・社会保険料を見込んでいるか
  5.  住宅ローンの完済時期や住居維持費を確認しているか
  6.  医療費・介護費の予備費を考えているか
  7.  趣味・旅行・交際費を無理のない範囲で見込んでいるか
  8.  年間の特別支出や数年ごとの大きな支出を整理しているか
  9.  夫婦で退職後の暮らし方と支出について話し合っているか
  10.  支出の変化をキャッシュフロー表で確認しているか

このうち、特に重要なのは、1・2・10です。

  1.  現在の毎月の生活費を把握しているか / 2. 退職後に減る支出と増える支出を書き出しているか / 10. 支出の変化をキャッシュフロー表で確認しているか

 この3項目を確認すると、「現在の家計」「退職後に変わる支出」「将来の資産の減り方」を整理できます。

この記事を読んだ方は、まず、
銀行口座やクレジットカードの明細を用意し、次の4つを書き出してみましょう。 

  • 現在の毎月の生活費
  • 退職後に減る支出
  • 退職後に増える支出
  • 年間の特別支出

そのうえで、退職後の毎月の生活費の目安を作ってみてください。

6. まとめ:支出の変化を見える化する

退職後の支出は、単純に「減る」とも「増える」とも言えません。

 <今日のポイント>

  • 退職後の支出は、「減る・増える・続く」の3つに分ける
  • 現在の家計を、退職後の支出を考える出発点にする
  • 通勤費、仕事関係費、教育費などは減る可能性がある
  • 医療費、介護費、趣味・旅行費、自宅関連費などは増える可能性がある
  • 税金、社会保険料、基本生活費は退職後も続く
  • 毎月の生活費と年間の特別支出を分ける
  • 年代によって支出の中身が変わることを見込む
  • 支出の変化をキャッシュフロー表で確認する

退職後の支出を整理する目的は、生活費を必要以上に切り詰めることではなく、無理のない暮らしを続けられるかを確認することです。
ご自身の場合、退職後の支出が現役時代と比べてどのように変わり、預貯金などの資産がどのように推移するのかを確認したい方は、キャッシュフロー表で時系列に整理するとわかりやすくなります。

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出典・参考(2026年9月25日現在)

総務省統計局「家計調査」
総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」
全国健康保険協会「退職後の健康保険について」
全国健康保険協会「健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)の保険料について」
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
厚生労働省「介護サービス情報公表システム サービスにかかる利用料」
国税庁「公的年金等の課税関係」
松戸市「退職した場合の市民税・県民税・森林環境税は?」

※本記事は、退職後の支出に関する一般的な情報を提供するものです。
※実際の支出額、税金、社会保険料、医療費、介護費などは、家族構成、所得、健康状態、居住地、加入制度などによって異なります。
※税金や社会保険制度については、お住まいの自治体や加入する健康保険などで最新の情報をご確認ください。

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