第20回 リタイア後の介護費にどう備えるか|公的介護保険・自己負担・家族介護をやさしく整理
1. はじめに:介護保険を使えば、自己負担はどのくらいになるのか
第19回では、リタイア後の医療費について、公的医療保険と高額療養費制度を中心に整理しました。
医療費とあわせて、退職後のお金を考えるうえで見落とせないのが介護費です。
50代会社員の方にとって、介護は自分自身の問題としては、まだ実感しにくいかもしれません。
しかし、親の介護、配偶者の介護、将来の自分自身の介護を考えると、リタイア後のお金の計画から外すことはできません。
- リタイア後の介護費は、どのくらい見込めばよいのでしょうか
- 介護保険を使えば、自己負担はどのくらいになるのでしょうか
- 在宅介護と施設介護では、費用はどう変わるのでしょうか
- 親の介護費は、子どもが負担するのでしょうか
- 家族で介護すれば、お金はあまりかからないのでしょうか
介護費は、介護が始まる時期、必要な期間、要介護度、利用するサービスなどによって大きく変わります。
将来必要になる金額を、正確に予測することはできません。
だからこそ、50代のうちから公的介護保険の仕組みを知り、制度で負担が抑えられる部分と、自分や家族で備える部分を分けて考えることが大切です。
この記事では、公的介護保険の基本、介護サービスを利用するまでの流れ、自己負担、制度の対象外となる費用、家族介護への備えを整理します。
2. 結論:介護費は3つに分けて考える
介護費は、次の3つに分けると整理しやすくなります。
<介護費を考える3つの区分>
| 区分 | 主な内容 | 考え方 |
|---|---|---|
| 公的介護保険の対象となる費用 | 訪問介護、通所介護、福祉用具貸与、施設サービスなど | 自己負担割合と支給限度額を確認する |
| 制度の対象外・上乗せとなる費用 | 食費、居住費、日用品費、交通費、民間サービスなど | 自己負担として別に見込む |
| 家族介護にかかわる負担 | 家族の時間、交通費、仕事への影響、精神的負担など | お金以外の負担も含めて考える |
公的介護保険を利用すれば、介護サービスの費用をすべて自分で負担するわけではありません。
一方、介護保険サービスの自己負担や、制度の対象外となる費用は残ります。
また、家族が介護を担う場合には、交通費や付き添い費用だけでなく、仕事を休むことによる収入への影響も考える必要があります。
介護費への備えは、「公的介護保険の対象となる費用」「制度の対象外となる費用」「家族にかかる負担」に分けて考えましょう。
3. 基本知識:リタイア後の介護費を整理する7つの視点
① 公的介護保険の基本を知る
公的介護保険は、介護が必要になったときに、一定の自己負担で介護サービスを利用できる制度です。
40歳以上の方が介護保険の被保険者となり、年齢によって第1号被保険者と第2号被保険者に分かれます。
<介護保険の被保険者>
| 区分 | 対象者 | 介護サービスを利用できる主な条件 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 65歳以上の方 | 原因を問わず、要支援・要介護状態と認定された場合 |
| 第2号被保険者 | 40歳から64歳までの医療保険加入者 | 加齢に伴う特定疾病が原因で、要支援・要介護状態と認定された場合 |
40歳から64歳までの方は、介護保険料を支払っていても、すべての病気やけがによる介護が対象になるわけではありません。
末期がん、関節リウマチ、初老期における認知症など、介護保険制度で定められた特定疾病が原因の場合に限られます。
65歳以上になると、要支援・要介護状態になった原因を問わず、認定を受けることで介護サービスを利用できます。
介護保険料を支払っていることと、実際に介護サービスを利用できることは分けて理解しましょう。
また、介護保険料と、介護サービスを利用したときの自己負担は別の支出です。
退職後のキャッシュフロー表では、介護保険料と介護費を重ねて計上しないよう、別々に整理することが大切です。
② 介護サービスを利用するまでの流れを確認する
介護保険サービスを利用するためには、原則として要介護認定を受ける必要があります。
主な流れは、次のとおりです。
<介護サービスを利用するまでの流れ>
- 市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談する
- 要介護・要支援認定を申請する
- 認定調査を受ける
- 主治医意見書などを基に審査・判定される
- 要支援・要介護の区分が決まる
- ケアプランを作成し、介護サービスを利用する
認定結果は、非該当、要支援1・2、要介護1~5に分かれます。
要支援と認定された場合は、地域包括支援センターなどに相談して介護予防ケアプランを作成します。
要介護と認定された場合は、ケアマネジャーと相談しながらケアプランを作成します。
介護サービスは、必要になったその日から自由に使えるものではありません。
まず相談し、認定を受け、必要なサービスを選ぶという流れを知っておきましょう。
親の生活に不安を感じたときは、家族だけで抱え込まず、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談することができます。
③ 自己負担割合と支給限度額を確認する
介護保険サービスを利用した場合の自己負担は、原則としてサービス費用の1割です。
ただし、一定以上の所得がある方は2割または3割になります。
実際の自己負担割合は、市区町村から交付される「介護保険負担割合証」で確認します。
また、居宅サービスなどには、要支援・要介護の区分に応じて、1か月に介護保険を利用できる支給限度額が設けられています。
<介護サービス費用の考え方>
| 利用状況 | 利用者の負担 |
|---|---|
| 支給限度額の範囲で利用する | 原則1割。所得により2割または3割 |
| 支給限度額を超えて利用する | 超えた部分は原則として全額自己負担 |
| 介護保険の対象外となるサービスを利用する | 原則として全額自己負担 |
例えば、自己負担割合が1割であっても、介護に関係する費用のすべてが1割になるわけではありません。
支給限度額を超えたサービスや、介護保険の対象外となる費用は、原則として全額を自分で負担します。
「自己負担は1割」という言葉だけで判断せず、自己負担割合、支給限度額、制度の対象外となる費用を分けて確認しましょう。
④ 高額介護サービス費と対象外費用を確認する
介護保険サービスの自己負担額が高額になった場合には、「高額介護サービス費」によって負担を抑える仕組みがあります。
1カ月に支払った介護サービスの自己負担額が、所得区分などに応じた上限額を超えた場合、超えた金額が支給されます。
ただし、介護に関係するすべての費用が対象になるわけではありません。
<主な対象外費用>
- 施設利用時の食費・居住費
- 日用品費・理美容費
- 支給限度額を超えて利用したサービス費
- 介護保険の対象外となる民間サービスの費用
- 福祉用具購入や住宅改修の対象外部分・上限超過分
- 在宅介護で使用するおむつなどの消耗品費
- 通院・面会・遠距離介護の交通費や宿泊費
- 家族の付き添いにかかる費用
介護保険施設やショートステイ利用時の食費や居住費については、所得や資産などの要件を満たす場合、「介護保険負担限度額認定」によって負担が軽減されることがあります。
また、医療保険と介護保険の両方に自己負担が生じた世帯には、「高額医療・高額介護合算制度」によって年間の負担を軽減する仕組みもあります。
高額介護サービス費があっても、介護に関係する支出がすべて上限の対象になるわけではありません。
利用できる制度や申請方法は、市区町村や加入している医療保険などで確認しましょう。
⑤ 在宅介護と施設介護の費用の違いを知る
介護費は、在宅介護と施設介護で内容が異なります。
<在宅介護と施設介護で考えたい費用>
| 項目 | 在宅介護 | 施設介護 |
|---|---|---|
| 介護サービス | 訪問介護、通所介護、訪問看護、短期入所など | 施設サービスの自己負担 |
| 住まいに関する費用 | 住宅改修、福祉用具、光熱費など | 居住費、管理費など |
| 日常生活に関する費用 | 食費、日用品、おむつなど | 食費、日用品、理美容費など |
| 家族にかかる負担 | 見守り、付き添い、交通費、仕事への影響など | 面会交通費、手続き、連絡調整など |
| 確認したいこと | 本人の状態、住環境、家族が支援できる範囲 | 施設の種類、入居条件、月額費用、追加費用 |
在宅介護では、介護サービス費だけでなく、住宅改修、福祉用具、家族の見守りや交通費などが発生する場合があります。
施設介護では、施設サービスの自己負担に加えて、食費、居住費、日用品費などがかかります。
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、民間の有料老人ホームなど、施設の種類によって費用や入居条件は大きく異なります。
在宅介護と施設介護は、金額だけでなく、本人の状態、住まいの環境、家族が支援できる範囲を含めて比較することが大切です。
⑥ 家族介護にかかる負担を整理する
家族介護には、家族が直接支払うお金だけでなく、時間、体力、仕事、精神面への負担があります。
50代では、親の介護と、自分自身のリタイア準備が重なる場合があります。
<家族介護で確認したい負担>
- 通院や手続きに付き添う時間
- 親の家までの交通費・宿泊費
- 介護のために仕事を休む影響
- 勤務時間の短縮による収入の減少
- 兄弟姉妹との役割分担
- 家族の体力的・精神的な負担
- 自分たちの老後資金への影響
親の介護費については、まず親本人の年金、預貯金、住まいなどを確認し、本人の資産でどこまで対応できるかを考えます。
不足する場合に家族が支援するときは、金額の上限、負担する期間、兄弟姉妹の役割分担を話し合うことが大切です。
家族が介護を担うからといって、費用がかからないわけではありません。
また、介護に直面しても、すぐに仕事を辞めるのではなく、勤務先の介護休業、介護休暇、短時間勤務などの両立支援制度を確認しましょう。
家族介護は、家族だけで介護を抱えることではありません。
介護サービスや勤務先の制度を利用し、仕事と介護を両立できる方法を考えることが大切です。
⑦ 介護費を見積もり、キャッシュフロー表に反映する
介護費は、平均的な金額をそのまま使うのではなく、ご自身や家族の状況に合わせて考えます。
<介護費の見積もり方>
| 区分 | 見積もり方 |
|---|---|
| 介護サービスの自己負担 | 要介護度、利用するサービス、自己負担割合から見込む |
| 食費・居住費・日用品費 | 在宅・施設の違いを踏まえて別に見込む |
| 住宅改修・福祉用具 | 一時的な支出として見込む |
| 家族介護にかかる費用 | 交通費、宿泊費、付き添い費用などを見込む |
| 仕事への影響 | 休業や勤務時間短縮による収入減少を確認する |
| 予備費 | 介護期間の長期化や想定外の支出に備える |
介護費は、毎月または毎年発生する費用と、一時的に発生する費用に分けます。
毎月の介護サービス費、施設の利用料などは、継続的な支出として見込みます。
住宅改修、福祉用具の購入、施設への入居一時金などは、イベント費用として考えます。
親の介護費と、自分や配偶者の将来の介護費も分けて考えましょう。
民間介護保険は、公的介護保険を利用しても残る負担に備える方法の一つです。
加入や見直しを検討する場合は、保険料だけでなく、保険会社が定める介護状態の認定条件、給付金の種類、保障期間などを確認します。
民間介護保険は、公的介護保険で負担が抑えられる範囲と、預貯金で対応できる範囲を確認したうえで必要性を判断しましょう。
4. 注意点:介護費を平均額だけで考えない
注意点1:平均的な介護費をそのまま自分に当てはめない
介護費は、要介護度、介護期間、利用するサービス、在宅か施設か、家族の関わり方などによって大きく異なります。
平均額は参考になりますが、ご自身に必要な金額を示すものではありません。
親や夫婦の状況に合わせて見積もりましょう。
注意点2:「自己負担1割」を介護費全体の1割だと考えない
原則1割となるのは、介護保険の対象となるサービスを支給限度額の範囲内で利用した場合です。
食費、居住費、日用品費、交通費、民間サービスなどは別に負担する必要があります。
注意点3:高額介護サービス費で自己負担がゼロになるとは考えない
高額介護サービス費は、介護サービスの自己負担額を一定の上限に抑える制度です。
上限額までの負担や、食費・居住費など制度の対象外となる費用は残ります。
注意点4:家族介護や介護離職の影響を軽く考えない
家族介護には、お金だけでなく、時間、体力、仕事、精神面への負担があります。
介護のために仕事を辞めると、現在の収入だけでなく、将来の年金や自分自身の老後資金にも影響する可能性があります。
退職を決める前に、地域包括支援センター、ケアマネジャー、勤務先などへ相談しましょう。
注意点5:親の介護費と自分たちの介護費を混同しない
親の介護費は、親本人の年金や預貯金で対応できる範囲を確認します。
自分や配偶者の将来の介護費は、自分たちのキャッシュフロー表に予備費として反映します。
また、介護保険の自己負担割合、保険料、利用できるサービスなどは、所得、自治体、制度改正によって変わる場合があります。
実際に介護サービスを利用するときは、市区町村や地域包括支援センターなどで最新の情報を確認しましょう。
5. 自分ごと化:リタイア後の介護費を確認する10の項目
次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。
- 自分や親が第1号・第2号被保険者のどちらに該当するか確認しているか
- 介護サービスを利用するまでの相談先と申請手続きを確認しているか
- 介護サービスの自己負担割合と支給限度額を確認しているか
- 高額介護サービス費や負担限度額認定などの制度を確認しているか
- 食費、居住費、日用品費、交通費などの対象外費用を理解しているか
- 在宅介護と施設介護で必要となる費用の違いを確認しているか
- 親の年金、預貯金、住まいなどを確認しているか
- 兄弟姉妹の役割分担や勤務先の介護支援制度を確認しているか
- 自分や配偶者の将来の介護費に備える予備費を考えているか
- 介護費と介護保険料をキャッシュフロー表に反映しているか
このうち、特に重要なのは、3・7・10です。
- 自己負担割合と支給限度額を確認しているか / 7. 親の年金、預貯金、住まいなどを確認しているか / 10. 介護費と介護保険料をキャッシュフロー表に反映しているか
この3項目を確認すると、「公的介護保険を利用した場合の負担」「親の介護費をまかなう資金」「自分たちの老後資金への影響」を整理できます。
この記事を読んだ方は、まず、次の資料を用意してみましょう。
- 親やご自身の介護保険被保険者証・介護保険負担割合証(交付されている場合)
- 親の年金額、預貯金、毎月の生活費がわかる資料
- 勤務先の介護休業・介護休暇などがわかる資料
そのうえで、次の3つを書き出してみてください。
- 介護サービスを利用した場合の毎月の自己負担額
- 食費、居住費、交通費など制度の対象外となる費用
- 家族が支援できる金額と役割の範囲
6. まとめ:介護費は制度・自己負担・家族負担に分けて考える
リタイア後の介護費は、いつ、どのくらい必要になるか予測しにくい支出です。
しかし、公的介護保険によって、介護サービスの費用をすべて自分で負担しなくてよい仕組みがあります。
<今日のポイント>
- 40歳以上は公的介護保険の被保険者となる
- 65歳以上と40歳から64歳まででは、介護サービスを利用できる条件が異なる
- 介護サービスを利用するには、原則として要介護・要支援認定が必要
- 自己負担は原則1割で、所得により2割・3割となる
- 支給限度額を超えた部分は、原則として全額自己負担となる
- 高額介護サービス費があっても、食費や居住費などは対象外となる
- 在宅介護と施設介護では、必要となる費用の内容が異なる
- 家族介護は、お金だけでなく、時間・体力・仕事への影響も考える
- 親の介護費と、自分や配偶者の介護費を分けて考える
- 介護費と介護保険料をキャッシュフロー表に反映する
介護費への備えは、まとまった金額を用意するだけではありません。
利用できる制度、自己負担として残る費用、家族が担う範囲を具体的にすることが大切です。
ご自身の場合、親の介護費や将来の自分たちの介護費をどのくらい見込めばよいか、今後の資産残高にどのような影響があるかを確認したい方は、キャッシュフロー表で時系列に整理するとわかりやすくなります。
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出典・参考(2026年9月26日現在)
厚生労働省「介護保険制度の概要」
厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方(第2号被保険者)向け)」
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「介護保険とは」
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービス利用までの流れ」
厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
厚生労働省「仕事と介護の両立~介護離職を防ぐために~」
松戸市「介護保険を利用するには」
松戸市「介護保険負担限度額認定について」
松戸市「高額医療・高額介護合算制度」
※本記事は、公的介護保険、介護費、家族介護などに関する一般的な情報を提供するものです。
※実際の自己負担割合、支給限度額、介護保険料、利用できるサービスなどは、年齢、所得、要介護度、居住する市区町村、制度改正などによって異なります。
※介護保険制度や利用手続きについては、市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどで最新の情報をご確認ください。
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