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資産と負債

第25回 退職前に資産と負債を棚卸しする|一覧化する意味をわかりやすく整理

1. はじめに:退職後に本当に使えるお金はいくらあるのか

第24回では、退職金を生活防衛・返済・将来支出・運用の4つに分けて考える方法を整理しました。
退職金の使い道を考える前に確認したいのが、現在保有している資産と、これから返済する負債です。

退職が近づくと、退職金や公的年金の金額に目が向きやすくなります。
しかし、退職後のお金を考えるうえでは、退職金だけでなく、預貯金、運用資産、保険、不動産、住宅ローンなどを含めた全体像を確認する必要があります。

  • 預貯金は、全部でいくらあるのでしょうか
  • 投資信託や株式は、現在いくらになっているのでしょうか
  • 保険は、資産として考えてよいのでしょうか
  • 住宅ローンは、退職後もどのくらい残るのでしょうか
  • 退職後にすぐ使えるお金は、いくらあるのでしょうか
  • 夫婦で資産と負債の状況を共有できているでしょうか

退職後のお金の不安は、「いくら持っているかわからない」「何を返す必要があるかわからない」という状態から生じることがあります。
資産と負債を一覧化する目的は、財産の多さを確認することではなく、退職後に使えるお金と返す必要があるお金を明確にすることです。

この記事では、資産と負債の棚卸し方法、一覧に記載したい項目、純資産の考え方、キャッシュフロー表への反映方法を整理します。

2. 結論:金額だけでなく、使える時期と条件を一覧にする

退職前の資産と負債は、次の4つに分けると整理しやすくなります。

<資産と負債の基本整理>

区分 主な内容 確認したいこと
すぐ使える資産 普通預金、定期預金など 残高、名義、金融機関、満期
価格変動や受け取り条件のある資産 株式、投資信託、iDeCo、企業型DCなど 現在の評価額、受け取り時期、価格変動
すぐには現金化しにくい資産 保険、不動産、車など 解約・売却の可否、見込み額、必要な費用
返済が必要な負債 住宅ローン、自動車ローン、カードローンなど 残高、金利、毎月返済額、残り期間

資産を確認するときは、金額だけでなく、「いつ使えるか」「現金化できるか」も確認します。
現金化のしやすさを「流動性」といいます。

例えば、普通預金はすぐに使えますが、自宅は資産であっても、売却しなければ生活費には使えません。
また、株式や投資信託は売却できますが、価格が変動します。
iDeCoや企業型DCは残高があっても、受け取り時期や手続きに条件があります。

資産総額が同じでも、すぐ使えるお金が多い家計と、現金化しにくい資産が多い家計では、退職後のお金の使いやすさが異なります。

3. 基本知識:資産と負債を整理する7つの視点

① 基準日と整理する範囲を決める

資産と負債は、最初に「いつの時点で」「誰の分まで」整理するかを決めます。
例えば、「2026年9月末現在」「夫婦合算」といった基準を設けます。
預貯金の残高や投資信託などの評価額は日々変わるため、確認する日が異なると合計額も変わります。

また、ご自身の資産だけでなく、配偶者名義の預貯金、保険、運用資産、借入金なども確認する必要があります。
一覧には、少なくとも次の項目を記載しましょう。

<資産・負債一覧に記載したい項目>

  • 資産または負債の種類
  • 名義
  • 金融機関・保険会社・借入先
  • 口座や契約を特定できる情報
  • 基準日現在の残高・評価額
  • 受け取り時期・満期・返済期限
  • 毎月の入金額・返済額
  • 確認した資料の日付

最初から正確な評価額にこだわるよりも、基準日と対象範囲を決め、漏れなく一覧にすることを優先しましょう。

② 預貯金と今後受け取るお金を確認する

最初に、比較的金額を確認しやすい預貯金から整理します。

<確認したい主な項目>

  • 普通預金
  • 定期預金
  • 貯蓄預金
  • 財形貯蓄
  • 社内預金
  • 外貨預金
  • 退職金
  • 企業年金
  • 個人年金保険

預貯金は、金融機関名、支店名、名義、口座の種類、残高、満期などを確認します。
退職金や企業年金など、まだ受け取っていないお金は、現在の預貯金とは分けて整理します。
勤務先の資料で、見込み額、受け取り時期、一時金・年金形式などの受け取り方を確認しましょう。
外貨預金は、円に換算した金額が為替相場によって変わる点にも注意が必要です。

現在持っているお金と、退職後に受け取る予定のお金を分けることで、二重計上を防ぎやすくなります。

③ 株式・投資信託・確定拠出年金を確認する

株式や投資信託などは、購入したときの金額ではなく、基準日現在の評価額を確認します。
主な項目は、次のとおりです。

  • 株式
  • 投資信託
  • 債券
  • NISA口座で保有している商品
  • iDeCo
  • 企業型DC
  • その他の運用商品

NISAは金融商品そのものではなく、株式や投資信託などを保有するための制度・口座です。
一覧には、「NISA」とだけ記載するのではなく、NISA口座で保有している商品と評価額を記載します。

iDeCoや企業型DCについては、現在の残高だけでなく、受け取り開始時期、受け取り方法、退職後に必要となる手続きも確認します。

価格変動型商品は、現在の評価額と、実際に使う時期の金額が同じとは限りません。
取得額、現在の評価額、含み損益、使用予定時期を分けて整理すると、退職後の運用方針を考えやすくなります。

④ 保険・不動産・その他の資産を確認する

保険や不動産も資産になる場合がありますが、預貯金と同じように考えることはできません。
生命保険や個人年金保険では、次の項目を確認します。

  • 保険会社・保険の種類
  • 契約者・被保険者・受取人
  • 保障内容・保障期間
  • 保険料・払込期間
  • 解約返戻金の有無と金額
  • 満期保険金・年金の受取予定

死亡保険金は、本人が退職後の生活費として使える資産ではありません。
また、解約返戻金のある保険でも、解約すると保障がなくなったり、払込保険料を下回ったりする場合があります。

不動産については、自宅、土地、賃貸不動産などに分け、所在地、名義、持分、おおよその評価額、住宅ローン、固定資産税や管理費などを確認します。
自宅は資産ですが、売却や賃貸をしない限り、毎月の生活費に使えるお金にはなりません。

保険や不動産は、評価額だけでなく、保有する目的と現金化する場合の条件を確認しましょう。

⑤ 住宅ローンなどの負債を確認する

負債は、これから返済する必要があるお金です。
主な項目は、次のとおりです。

<確認したい主な負債>

  • 住宅ローン
  • 自動車ローン
  • 教育ローン
  • カードローン
  • クレジットカードの分割払い・リボ払い
  • 親族や知人からの借入金
  • 保証人になっている契約

負債は、借入先、残高、金利、毎月返済額、返済日、残り期間を確認します。

住宅ローンについては、変動金利・固定金利の別、団体信用生命保険の加入状況、繰上返済の条件なども確認します。
カードローンやリボ払いは、毎月の返済額が少なく見えても、金利や返済期間によって総返済額が大きくなることがあります。
保証人になっている契約は、現在返済していなくても、将来負担が生じる可能性があるため、別に記録しておきましょう。

資産の棚卸しと負債の棚卸しは、必ず同じ時点で行うことが大切です。

⑥ 純資産とすぐ使えるお金を分けて確認する

資産と負債を一覧化したら、純資産を計算します。
純資産 = 資産総額 - 負債総額

例えば、資産総額が4,000万円、住宅ローンなどの負債総額が1,000万円であれば、純資産は3,000万円です。
ただし、純資産が3,000万円あっても、その多くが自宅であれば、生活費としてすぐ使えるわけではありません。

そのため、次の2つを分けて確認します。

  • 資産から負債を差し引いた純資産
  • 預貯金など、退職後にすぐ使えるお金

また、住宅修繕費、車の買い替え費用、医療・介護費など、将来予定している支出は負債ではありません。
これらは、負債一覧に含めるのではなく、キャッシュフロー表の将来支出として反映します。

純資産は家計の全体像を知るための指標ですが、退職後の生活余力は、すぐ使えるお金と将来の収支をあわせて確認する必要があります。

⑦ 夫婦で共有し、キャッシュフロー表に反映する

資産と負債の棚卸しは、一覧表を作って終わりではありません。
夫婦で内容を確認し、退職後のキャッシュフロー表に反映します。
夫婦で確認したいのは、次のような点です。

  • どこに、どのような資産があるか
  • 退職後にどの負債が残るか
  • 生活防衛資金をいくら確保するか
  • 住宅ローンをどのように返済するか
  • 将来の支出にいくら残すか
  • どの資産を運用し、どの資産を取り崩すか

金融機関や契約内容を確認できる一覧は、病気や災害などの緊急時や、将来の相続手続きにも役立ちます。
ただし、暗証番号やインターネットバンキングのパスワードは一覧表に記載せず、別の安全な方法で管理しましょう。
資産や負債の残高は変わるため、退職時、年金受給開始時、住宅ローンの返済方針を変更したときなどに見直します。

資産と負債の一覧をキャッシュフロー表に反映することで、退職後に資産がどのように変化するかを確認できます。

4. 注意点:資産額の大きさだけで判断しない

注意点1:資産総額をすべて使えるお金だと考えない

預貯金、投資商品、自宅などを合計すると、大きな資産額になる場合があります。
しかし、自宅や保険などは、すぐに生活費へ充てられるとは限りません。
資産総額と、すぐ使えるお金を分けて確認しましょう。

注意点2:同じ資産を二重に計上しない

預貯金に退職金を加えた後、退職金を別の項目にも記載すると、同じお金を二重に計上することになります。
NISA口座についても、口座内の商品とNISAを別々の資産として計上しないようにしましょう。
基準日を統一し、資産の移動前後を重ねて計上しないことが大切です。

注意点3:保険金や不動産を高く見積もりすぎない

死亡保険金を本人の生活資金として計上したり、自宅の評価額をそのまま使えるお金として考えたりしないようにします。
保険は解約返戻金、不動産は売却見込み額や、売却に必要な費用などを確認しましょう。

注意点4:少額の負債や保証債務を見落とさない

クレジットカードの分割払い、リボ払い、親族からの借入金などは、住宅ローンに比べて見落としやすい負債です。
また、夫婦の一方が保証人になっている契約を、もう一方が知らないこともあります。
金額の大小にかかわらず、返済や負担が生じる可能性のあるものを一覧にしましょう。

注意点5:一覧表の管理と更新を怠らない

資産と負債の一覧表には、重要な個人情報が含まれます。
保管場所や閲覧できる人を決め、暗証番号やパスワードは記載しないようにします。
また、一覧表は一度作って終わりではなく、残高や契約内容が変わったときに更新しましょう。

5. 自分ごと化:資産と負債を確認する10の項目

次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。

  1.  夫婦それぞれの資産を含め、世帯全体で一覧にしているか
  2.  預貯金の金融機関、名義、残高、満期を確認しているか
  3.  株式・投資信託などを現在の評価額で確認しているか
  4.  NISA口座、iDeCo、企業型DCの残高と受け取り時期を確認しているか
  5.  保険の保障内容、保険料、解約返戻金などを確認しているか
  6.  不動産や車など、すぐには現金化しにくい資産を確認しているか
  7.  住宅ローンなどの残高、金利、毎月返済額、残り期間を確認しているか
  8.  純資産と、すぐ使えるお金を分けて確認しているか
  9.  資産と負債の一覧を夫婦で共有し、安全に保管しているか
  10.  資産と負債をキャッシュフロー表に反映しているか

このうち、特に重要なのは、1・7・10です。

  1. 夫婦それぞれの資産を含め、世帯全体で一覧にしているか / 7. 住宅ローンなどの残高、金利、毎月返済額、残り期間を確認しているか / 10. 資産と負債をキャッシュフロー表に反映しているか

この3項目を確認すると、「世帯全体で保有する資産」「退職後も続く返済」「将来の資産残高」を整理できます。

この記事を読んだ方は、まず、次の資料を用意してみましょう。

  • 預貯金通帳・インターネットバンキングの残高
  • 証券会社の取引残高報告書
  • iDeCo・企業型DCの残高がわかる資料
  • 退職金・企業年金の案内資料
  • 保険証券・契約内容のお知らせ
  • 固定資産税の納税通知書など、不動産の内容がわかる資料
  • 住宅ローンなどの返済予定表
  • クレジットカードの利用明細

そのうえで、資産と負債を次の順序で書き出してみてください。

  1.  資産・負債の名称
  2.  名義
  3.  金融機関・契約先
  4.  現在の残高・評価額
  5.  満期・受け取り時期・返済期限
  6.  毎月の入金額・返済額
  7.  すぐに使えるかどうか

最初から細かい評価額をそろえる必要はありません。
まず全体を一覧にし、不明な項目を一つずつ確認していきましょう。

6. まとめ:資産と負債の全体像を見える化する

資産と負債を棚卸しすることは、単なる財産リストを作ることではありません。
退職後の生活を支えるお金の全体像を明確にする作業です。

<今日のポイント>

  • 基準日と整理する範囲を決める
  • 資産は、すぐ使えるものと、条件のあるものに分ける
  • 株式や投資信託は現在の評価額で確認する
  • NISA口座内の商品とNISAを二重に計上しない
  • 保険は保障内容と解約返戻金を確認する
  • 不動産は評価額だけでなく、現金化の条件を確認する
  • 負債は残高、金利、毎月返済額、残り期間を確認する
  • 純資産と、すぐ使えるお金を分けて考える
  • 資産と負債の一覧を夫婦で共有する
  • 一覧化した内容をキャッシュフロー表に反映する

資産と負債を一覧化する目的は、資産の多さを確認することではありません。
退職後に使えるお金と、返す必要があるお金を把握し、これからの判断に役立てることです。
ご自身の場合、退職前にどの資産と負債を整理すればよいか、退職金や住宅ローンをどのように考えればよいかを確認したい方は、キャッシュフロー表で時系列に整理するとわかりやすくなります。

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出典・参考(2026年9月28日現在)

金融経済教育推進機構(J-FLEC)「大人のためのお金と生活の知恵」
金融庁「家計管理とライフプランニング」
金融庁「資産形成の基本」
金融庁「ライフプランシミュレーター」
国民年金基金連合会「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」
国民年金基金連合会「iDeCoでは、年に一度は運用状況をチェックすることが必要」
全国銀行協会「家計管理とライフイベント」

※本記事は、退職前の資産・負債の整理や家計管理に関する一般的な情報を提供するものです。
※資産の評価額、解約返戻金、売却可能額、借入残高などは、確認する時期や契約内容、市場環境によって異なります。
※金融商品、保険、住宅ローンなどの内容については、金融機関、保険会社、勤務先などから交付された資料で最新の情報をご確認ください。
※資産と負債の一覧表には重要な個人情報が含まれるため、暗証番号やパスワードは記載せず、安全に管理してください。

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