第23回 退職金を住宅ローン返済に使うべきか|全額返済・一部返済・継続を比較する
1. はじめに:退職金で住宅ローンを全額返済した方がよいのか
第21回では、退職金の使い道を先に決めるのではなく、退職後の生活の中で果たす役割を決めることの大切さを整理しました。
第22回では、退職一時金と退職年金について、受け取り方の違いと考え方を確認しました。
退職金を一時金で受け取ったときに、使い道として考えやすいものの一つが、住宅ローンの返済です。
- 退職金で住宅ローンを全額返済した方がよいのでしょうか
- 退職後に住宅ローンが残っていると危険なのでしょうか
- 一部だけ繰上返済する方法はあるのでしょうか
- 返済を続けながら、退職金を手元に残した方がよいのでしょうか
- 住宅ローンを返済した後、手元資金はいくら残せばよいのでしょうか
退職後も住宅ローンが残ることに、不安を感じる方は少なくありません。
一方、退職金を住宅ローン返済に使いすぎると、生活費、医療費、介護費、住宅修繕費、車の買い替え費用などに使える資金が少なくなります。
退職金を住宅ローン返済に使うかどうかは、「完済できるか」ではなく、「返済した後も退職後の生活資金が残るか」で考えることが大切です。
この記事では、全額返済、一部返済、返済継続の違いと、判断するときに確認したい項目を整理します。
2. 結論:住宅ローンだけでなく、返済後の生活全体で考える
退職金を住宅ローン返済に使う方法は、次の3つに分けて考えます。
<3つの返済方法の比較>
| 返済方法 | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 全額返済 | 毎月の返済がなくなり、支払利息も減らせる | 退職金が大きく減り、手元資金が不足する可能性がある |
| 一部返済 | 毎月の返済額や返済期間を減らしながら、手元資金を残せる | 住宅ローンは残るため、その後も返済が続く |
| 返済継続 | 退職金を生活費や予備費として手元に残せる | 退職後の収入で毎月返済を続ける必要がある |
どの方法が合うかは、次の順序で確認すると整理しやすくなります。
- 住宅ローン残高、金利、毎月返済額、残りの返済期間を確認する
- 退職後の収入と生活費を確認する
- 医療・介護・住宅修繕などの予備費を確認する
- 3つの返済方法について手元に残る資金を比較する
- 夫婦にとって安心できる方法を考える
住宅ローンをなくす安心感と、手元資金を残す安心感の両方を比較することが重要です。
3. 基本知識:全額返済・一部返済・返済継続を整理する7つの視点
① 住宅ローンの現在の状況を確認する
最初に、住宅ローンの現在の状況を確認します。
<確認したい主な項目>
- 住宅ローン残高
- 毎月返済額
- ボーナス返済の有無
- 金利と金利タイプ
- 残りの返済期間
- 完済時の年齢
- 住宅ローン控除の適用状況
- 団体信用生命保険の保障内容
残高だけでなく、何歳まで毎月いくら返済するのかを確認することが大切です。
変動金利の場合は、今後の金利上昇によって返済負担が変わる可能性も考えます。
住宅ローン残高だけを見るのではなく、毎月返済額と完済時の年齢まで確認しましょう。
② 全額返済は、毎月の固定支出をなくす方法
全額返済は、退職金などを使って住宅ローン残高をすべて返済する方法です。
主なメリットは、次のとおりです。
- 毎月の住宅ローン返済がなくなる
- 退職後の固定支出を減らせる
- 将来支払う利息を減らせる
- 借入れがなくなる安心感を得られる
一方、全額返済すると、退職金という手元資金が一度に減ります。
住宅ローンがなくなっても、生活費や医療・介護費などに使えるお金が不足すれば、別の不安が生じます。
全額返済は、完済後に残る預貯金と退職後の資産残高を確認してから判断します。
③ 一部返済には2つの方法がある
一部返済は、住宅ローン残高の一部を繰り上げて返済する方法です。
主に、「返済額軽減型」と「期間短縮型」があります。
<一部返済の主な方法>
| 方法 | 内容 | 向いている目的 |
|---|---|---|
| 返済額軽減型 | 返済期間を変えず、毎月の返済額を減らす | 退職後の毎月の負担を軽くしたい |
| 期間短縮型 | 毎月返済額を大きく変えず、返済期間を短くする | 早く完済し、支払利息を減らしたい |
一部返済は、住宅ローンの負担を軽くしながら、退職金の一部を手元に残せる方法です。
毎月の収入が減る場合は返済額軽減型、退職後も返済できる余裕があり、早く完済したい場合は期間短縮型が選択肢になります。
繰上返済の最低金額、手数料、申込方法などは金融機関によって異なるため、事前に確認しましょう。
④ 返済継続は、退職金を手元に残す方法
返済継続は、退職金を住宅ローン返済に使わず、これまでどおり毎月返済を続ける方法です。
退職金を手元に残せるため、生活費、住宅修繕費、医療・介護費などに備えやすくなります。
一方、再雇用収入や年金収入に対して毎月返済額が大きいと、家計を圧迫する可能性があります。
返済を続ける場合は、次の点を確認します。
- 再雇用中の収入で返済できるか
- 公的年金の受給開始後も返済できるか
- 金利が上がっても家計に余裕があるか
- 完済時の年齢が高くなりすぎないか
- 配偶者に返済負担が残る可能性はないか
退職金を残すことだけでなく、退職後の収入で無理なく返済を続けられるかを確認する必要があります。
⑤ 返済前に、残しておきたい生活資金を確認する
退職金を住宅ローン返済に使う前に、退職後の生活に必要な資金を確認します。
主な項目は、次のとおりです。
- 公的年金の受給開始までの生活費
- 毎月の生活費の不足額
- 税金・社会保険料などの年間支出
- 住宅修繕・リフォーム費用
- 車や家電の買い替え費用
- 医療費・介護費への備え
- 旅行・趣味・家族支援などに使いたいお金
- 想定外の支出に備える予備費
必要な手元資金は、家族構成、退職後の収入、住まい、健康状態などによって異なります。
「退職金のうち何割を残す」と一律に決めるのではなく、キャッシュフロー表で必要額を確認します。
住宅ローンを返済する金額は、退職後に残しておきたい生活資金を確保した後に決めましょう。
⑥ 住宅ローン控除と団体信用生命保険を確認する
住宅ローン控除を受けている場合、繰上返済によって年末の住宅ローン残高が減ると、控除額が減る場合があります。
また、繰上返済後の最終返済日までの償還期間が、当初の返済開始から10年未満となった場合は、その年以後、住宅ローン控除を受けられなくなります。
繰上返済前に、住宅ローン控除の残りの適用期間と、繰上返済による影響を確認しましょう。
団体信用生命保険は、加入者が死亡した場合や所定の状態になった場合に、住宅ローン残高が返済される仕組みです。
全額返済によって住宅ローンがなくなると、団体信用生命保険の保障も終了します。
全額返済や一部返済を考えるときは、住宅ローン残高だけでなく、団体信用生命保険が家族にとってどのような役割を果たしているかも確認します。
ただし、団体信用生命保険を残すためだけに、無理に住宅ローンを続ける必要はありません。
死亡保障など家計全体の保障とあわせて考えましょう。
⑦ キャッシュフロー表で3つの方法を比較する
最終的な判断は、次の3つのケースをキャッシュフロー表に反映して比較します。
- 退職金で全額返済する場合
- 退職金で一部返済する場合
- 住宅ローンの返済を継続する場合
それぞれについて、次の項目を確認します。
- 返済後の手元資金
- 退職後の毎月収支
- 公的年金受給開始後の収支
- 住宅修繕など大きな支出への対応
- 将来の資産残高
- 住宅ローンを完済する年齢
全額返済によって毎月の収支が改善しても、手元資金が大きく減る場合があります。
返済を継続すれば手元資金は残りますが、毎月の赤字が続く場合もあります。
住宅ローンの支払利息だけでなく、退職後の資産がどのように推移するかまで比較して判断します。
4. 注意点:住宅ローンをなくすことだけを優先しない
注意点1:退職金で完済すれば必ず安心とは考えない
住宅ローンがなくなると、毎月の負担は軽くなります。
一方、手元資金が少なくなると、医療・介護、住宅修繕などの支出に対応しにくくなります。
住宅ローンをなくす安心感と、手元資金を残す安心感をあわせて考えましょう。
注意点2:支払利息だけで判断しない
繰上返済をすると、将来の支払利息を減らせます。
ただし、利息の削減額だけでなく、返済後の生活資金や予備費も確認する必要があります。
また、「住宅ローンを残して退職金を運用した方が得」と、将来の運用収益だけを前提に判断しないようにしましょう。
注意点3:退職直後の支出を見落とさない
退職後は、住民税、社会保険料、住宅修繕、車の買い替えなど、住宅ローン以外にも支出があります。
全額返済や一部返済の前に、退職直後から数年間の支出を確認しましょう。
注意点4:住宅ローン控除や手数料を確認する
繰上返済によって、住宅ローン控除の対象や控除額に影響する場合があります。
金融機関によっては、繰上返済の手数料、最低返済額、手続き方法なども異なります。
返済前に、金融機関や税務署などで確認しましょう。
注意点5:団体信用生命保険と夫婦の考え方を確認する
団体信用生命保険の保障内容は、金融機関や契約内容によって異なります。
また、「借入れを早くなくしたい」「手元資金を厚く残したい」など、夫婦で考え方が異なる場合があります。
保障内容と家計への影響を確認し、夫婦で返済方針を共有しましょう。
5. 自分ごと化:住宅ローン返済を考える10の項目
次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。
- 住宅ローン残高と全額返済に必要な金額を確認しているか
- 毎月返済額、金利、金利タイプを確認しているか
- 残りの返済期間と完済時の年齢を確認しているか
- 住宅ローン控除の適用状況を確認しているか
- 団体信用生命保険の保障内容を確認しているか
- 全額返済した後に残る手元資金を確認しているか
- 一部返済後の毎月返済額と返済期間を試算しているか
- 返済を継続した場合の退職後の収支を確認しているか
- 医療・介護・住宅修繕などの予備費を見込んでいるか
- 3つの返済方法をキャッシュフロー表で比較しているか
このうち、特に重要なのは、1・6・10です。
- 住宅ローン残高と全額返済に必要な金額を確認しているか / 6. 全額返済した後に残る手元資金を確認しているか / 10. 3つの返済方法をキャッシュフロー表で比較しているか
この3項目を確認すると、「完済できるか」だけでなく、「完済しても生活を維持できるか」「一部返済や返済継続の方が安心できるか」を整理できます。
まずは、次の資料を用意してみましょう。
- 住宅ローンの返済予定表・残高証明書
- 金利タイプや団体信用生命保険がわかる契約資料
- 金融機関による繰上返済の試算
- 住宅ローン控除に関する資料
- 退職金の見込み額・受取時期がわかる資料
- 退職後の生活費と大きな支出の一覧
- 預貯金・運用資産の一覧
そのうえで、「全額返済」「一部返済」「返済継続」の3つのケースについて、返済後の手元資金と将来の資産残高を比較してみましょう。
6. まとめ:返済後の生活資金まで確認する
退職金を住宅ローン返済に使うかどうかに、すべての人に共通する正解はありません。
住宅ローンの残高、金利、返済期間だけでなく、退職後の収入、生活費、大きな支出、手元資金をあわせて考える必要があります。
<今日のポイント>
- 住宅ローン残高、金利、毎月返済額、完済時の年齢を確認する
- 全額返済は毎月の負担をなくせる一方、手元資金が大きく減る
- 一部返済には、返済額軽減型と期間短縮型がある
- 返済継続は退職金を残せる一方、退職後も毎月返済が続く
- 住宅ローン返済前に、生活費や予備費を確保する
- 住宅ローン控除への影響を確認する
- 団体信用生命保険の保障内容を確認する
- 3つの返済方法をキャッシュフロー表で比較する
退職金で住宅ローンを返済する目的は、借入れをなくすことだけではありません。
退職後の住まいと生活を、無理なく維持できる状態をつくることです。
ご自身の場合、退職金を住宅ローン返済にどのくらい使えるか、返済後に手元資金をいくら残せばよいかを確認したい方は、キャッシュフロー表で時系列に整理するとわかりやすくなります。
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出典・参考(2026年9月27日現在)
国税庁「繰上返済等をした場合の償還期間」
国税庁「住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等」
住宅金融支援機構「繰上返済(個人住宅融資の場合)」
住宅金融支援機構「返済方法変更シミュレーション」
住宅金融支援機構「機構団体信用生命保険特約制度」
住宅金融支援機構「団体信用生命保険の契約概要(詳細版)」
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「将来に向けて 知っておきたいお金の話」
※本記事は、退職金による住宅ローン返済や繰上返済に関する一般的な情報を提供するものです。
※実際の金利、返済額、手数料、住宅ローン控除、団体信用生命保険の保障内容などは、金融機関、契約内容、所得、入居時期などによって異なります。
※繰上返済の手続きや団体信用生命保険については金融機関に、住宅ローン控除については税務署や税理士などに最新の情報をご確認ください。
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