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退職後の収入

第8回 60歳から65歳までの収入空白期間をどう乗り切るか

1. はじめに:年金開始までの生活費をどう確保するか

第7回では、退職後の生活費を、年金、働く収入、資産の取り崩しの組み合わせでまかなう考え方を整理しました。
その中でも、60歳で定年を迎え、公的年金を65歳から受け取る場合の5年間は、収入が下がりやすく、資産の取り崩しが始まりやすい時期です。

  • 再雇用・再就職後の給与で、生活費はどこまでまかなえるのか
  • 退職金や預貯金を、65歳までにいくら使ってよいのか
  • 支出をどこまで見直せばよいのか
  • 年金の繰上げ受給を選んでもよいのか

ここでいう「収入空白期間」は、必ずしも無収入になる期間ではありません。
現役時代より収入が減り、公的年金の本格的な受け取りが始まるまでの不足を、どのように補うか考える期間です。

2. 結論:不足額を把握し、複数の方法を組み合わせる

60歳から65歳までを乗り切る第一歩は、公的年金の受け取り開始までに、合計でいくら不足するかを把握することです。

<基本的な考え方>

  • 退職後の生活費と、税金・社会保険料などの支出を見積もる
  • 再雇用・再就職、企業年金などの手取り収入を確認する
  • 毎月の不足額と、不足が続く月数から必要額を計算する
  • 働く収入、退職金・預貯金、支出の見直しを組み合わせる

一つの方法だけで不足を埋めようとすると、働き方や資産、生活の楽しみのどこかに負担が偏りやすくなります。
資産運用や年金の繰上げ受給も選択肢ですが、目先の5年間だけでなく、65歳以降への影響を確認してから判断します。

「毎月の支出 − 毎月の手取り収入 = 毎月の不足額」を出し、年金開始までの累計額を確認することが出発点です。

3. 基本知識:収入空白期間を乗り切る7つの視点

60歳から65歳までの不足を考えるときは、次の7つの視点で順番に整理します。

  1. 収入空白期間:収入が減っても支出はすぐには減らない

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ります。
60歳で退職する場合は、それまでの生活費を別の収入や資産でまかなう必要があります。
一方、給与が下がっても、住居費、食費、光熱費、通信費、住宅ローンなどはすぐに同じ割合では減りません。
退職した翌年の税金・社会保険料も含め、手取りと支出の差を確認します。

最初に確認すること
公的年金の受け取り開始までの年数と、毎月・年間の不足額

生年月日などによって特別支給の老齢厚生年金を受け取れる場合もあるため、ご自身の年金記録と受給開始時期を確認します。

  1. 働く収入:取り崩す資産を抑える

再雇用・再就職で働く収入があれば、生活費を補い、退職金や預貯金の取り崩しを抑えられます。厚生年金に加入して働く期間は、将来の年金額にも反映されます。
65歳までの雇用確保は事業主の義務ですが、現役時代と同じ給与や職務が保証されるわけではありません。勤務先の制度と提示条件を確認します。

確認したい主な項目
手取り給与、賞与、勤務日数・時間、仕事内容、契約期間、働ける年齢、社会保険の加入

収入だけでなく、健康、家族との時間、生活のリズムも含め、無理なく続けられる働き方を選びます。

  1. 高年齢雇用継続給付:対象要件と支給額を確認する

60歳以降も雇用保険に加入して働き、賃金が60歳到達時などと比べて75%未満に低下した場合は、一定の要件を満たすと高年齢雇用継続給付の対象になることがあります。
2025年4月1日以降に60歳に達した方などは、支給率の上限が10%です。
実際の支給率や支給限度額は条件によって異なり、支給限度額などは改定されることがあります。

注意したいこと
自動的に支給されるとは限らないため、勤務先またはハローワークで対象要件と手続きを確認する

給付だけを前提にせず、再雇用後の手取り収入と支出の差を基本に考えます。

  1. 退職金・預貯金:5年間で使う上限を決める

退職金や預貯金は、年金開始までの不足を補う大切な原資です。
使うこと自体が問題なのではなく、何年間で、いくらまで使うかを決めずに取り崩すことが問題です。

分けて考えるお金
60歳から年金開始までの生活費、65歳以降の生活費、住宅修繕・医療・介護などの予備費

まず毎月の不足額を出し、年金開始までに資産から補う累計額を確認します。
退職金の使い道を、その範囲だけで決めないことが大切です。

  1. 支出の見直し:生活の満足度を保ちながら整える

支出の見直しは、収入空白期間の不足額を減らす効果があります。
特に、保険、通信費、車関連費、サブスクリプション、住宅ローンなどの固定費は、見直しの効果が続きやすい項目です。
一方で、趣味や旅行、家族との時間に使うお金を一律に削る必要はありません。
これからの暮らしで大切にしたい支出を残し、優先順位の低い支出を整えます。

見直しの考え方
「節約できるか」だけでなく、「これからも使いたいか」で判断する

  1. 資産運用:近い将来に使うお金と分ける

資産運用は老後資金を補う手段ですが、運用成果は確実ではありません。60歳から65歳までに使う予定のお金を、価格変動の大きい資産に置きすぎないことが大切です。

整理の基本
近い将来に使うお金は預貯金などで確保し、すぐに使わないお金と分けて管理する

短期的な不足を運用で一気に補おうとせず、必要なときに使える状態を優先します。

  1. 年金の繰上げ受給と比較:65歳以降まで確認する

公的年金は、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取れます。
ただし、繰り上げた月数に応じて年金額が減り、その減額率は生涯変わりません。
また、繰上げ請求は原則として取り消せません。
目先の収入だけで決めず、健康状態、働き方、資産状況、配偶者の年金なども含めて考えます。

キャッシュフロー表で比較する例
65歳まで働く場合、早く完全退職する場合、支出を見直す場合、年金を繰り上げる場合

各ケースについて、65歳時点の資産残高と、その後の収支を比較すると、ご自身に合う組み合わせが見えやすくなります。

4. 注意点:短期的な安心だけで判断しない

収入空白期間の対策を考えるときは、次の点に注意しましょう。

注意点1:「空白期間=無収入」と決めつけない

再雇用・再就職、企業年金など、ご自身が受け取れる収入は人によって異なります。
まず収入の種類、金額、始まる時期と終わる時期を一覧にします。

注意点2:再雇用後の収入を額面だけで見ない

定年後は、賃金、賞与、勤務時間、契約期間、税金・社会保険料が現役時代と変わる場合があります。
生活費と比べるときは、勤務先の資料を基に手取り額で見込みます。

注意点3:退職金を早く使いすぎない

60代前半に退職金を大きく取り崩すと、65歳以降の生活費や、住宅修繕・医療・介護などに使えるお金が減ります。
年金開始までに使う上限を決め、将来の予備費と分けて管理します。

注意点4:運用や年金繰上げだけで穴埋めしない

短期的な不足を高い運用収益で補おうとすると、必要な時期に資産価格が下がっている可能性があります。
年金の繰上げ受給も生涯の受取額に影響するため、働き方や支出の見直しとあわせて比較します。

注意点5:60歳から65歳までだけで考えない

この5年間を乗り切れても、65歳以降の年金と生活費に差があれば、資産の取り崩しは続きます。
少なくとも90歳頃までを目安に置き、働く期間や支出を変えた複数のケースを比較します。

5. 自分ごと化:収入空白期間を確認する10の項目

以下の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。

  1.  退職後の毎月の生活費と、年間・不定期の支出を把握しているか
  2.  公的年金の見込み額と、受け取り開始年齢を確認しているか
  3.  再雇用・再就職の手取り収入と、働く期間を確認しているか
  4.  企業年金・個人年金の受取時期と、高年齢雇用継続給付の対象になるかを確認しているか
  5.  60歳から公的年金開始までの不足額を、累計で計算しているか
  6.  退職金・預貯金から、年金開始までに使う上限を決めているか
  7.  退職した翌年の税金・社会保険料を支出に見込んでいるか
  8.  近い将来に使うお金を、すぐに使わない運用資産と分けているか
  9.  65歳以降の生活費の不足と、住宅修繕・医療・介護の予備費を考えているか
  10.  働く期間や支出、年金開始時期を変え、キャッシュフロー表で比較しているか

特に重要なのは、1・3・5です。
これらは、毎月必要なお金、働いて得られる手取り収入、公的年金が始まるまでに資産から補う総額を確認する項目です。

この記事を読んだ方は、まず、
退職後の毎月の生活費、再雇用後の手取り収入、年金開始までの月数を書き出し、累計の不足額を計算する
ことから始めてみましょう。
その上で、働く期間や支出を変えた場合を比べます。

6. まとめ:年金開始までの不足を見える化する

<今日のポイント>

  • 60歳から65歳までは、公的年金開始前に収入が下がりやすい時期
  • 収入空白期間は必ずしも無収入ではなく、手取り収入と支出の差を確認する
  • 毎月の不足額と不足が続く月数から、資産で補う累計額を把握する
  • 働く収入、退職金・預貯金、支出の見直しを組み合わせる
  • 近い将来に使うお金は、すぐに使わない運用資産と分けておく
  • 年金の繰上げ受給は、生涯の減額と65歳以降への影響を確認する
  • 複数の選択肢は、キャッシュフロー表で比較する

60歳から65歳までの不足を、すべて働く収入で補う必要も、すべて退職金で補う必要もありません。
大切なのは、必要額を先に確認し、無理のない働き方、支出の見直し、資産の使い方を組み合わせることです。
そして、目先の5年間だけでなく、65歳以降の収支と資産残高まで見通して、定期的に見直しましょう。

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出典・参考(2026年9月8日現在)

日本年金機構「老齢年金の制度」
日本年金機構「年金の繰上げ受給」
厚生労働省「高年齢者の雇用」
厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付」
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「金融リテラシー・マップ」

※本記事は、60歳から公的年金の受け取り開始までの資金計画について、一般的な考え方を整理したものです。
※実際の収入・支出・給付・受給開始時期・税金・社会保険料は、ご家庭ごとの条件によって異なります。
※年金、雇用保険、雇用、税制等の制度は変更されることがあります。
※具体的な判断をするときは、最新の公的情報や勤務先の資料をご確認ください。

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