第21回 退職金を受け取る前に考えるべきこと|使い道を先に決めない重要性
1. はじめに:退職金は、どのくらい使ってよいのか
50代会社員の方にとって、退職金は、長く働いてきた結果として受け取る大切なお金です。
一方、これまで手にしたことのない大きな金額を一度に受け取るため、使い道に迷う方も少なくありません。
- 住宅ローンの返済に使ってよいのか
- 退職金で資産運用を始めてもよいのか
- 車の買い替えや旅行に使っても大丈夫か
- 子どもや孫への支援に使う余裕はあるのか
- どのくらい残しておけば安心なのか
退職金は、受け取った時点では大きなお金に見えます。
しかし、退職後の生活全体で考えると、何十年にもわたる暮らしを支える資金でもあります。
退職金は、具体的な使い道を先に決めるのではなく、退職後の生活の中で果たす役割を決めることが大切です。
2. 結論:使い道を決める前に、役割を決める
結論から言うと、退職金は次の順序で考えます。
- 退職金の見込み額・受取時期・受取方法を確認する
- 税金を差し引いた手取り額を確認する
- 退職後の収入・支出・資産を整理する
- 退職金を3つの役割に分ける
- 住宅ローン返済、運用、旅行などの使い道を決める
退職金の役割は、次の3つに分けると整理しやすくなります。
| 役割 | 主な内容 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 生活を支えるお金 | 年金だけでは不足する生活費、収入空白期間の生活費 | 簡単には使わない |
| 将来に備えるお金 | 医療費、介護費、住宅修繕費、予備費 | 別枠で確保する |
| 使ってよいお金 | 旅行、趣味、家族支援など | 生活資金を確認してから決める |
「何に使うか」ではなく、「どの役割にいくら必要か」を先に考えることが、退職金の使いすぎを防ぐ基本です。
3. 基本知識:退職金の使い方を整理する7つの視点
① 受け取れる金額・時期・方法を確認する
退職時に受け取る資金には、勤務先の退職一時金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金などがあります。
勤務先によって制度が異なり、受け取れる時期や受取方法も同じではありません。
企業型確定拠出年金などでは、一時金と年金で税金の取り扱いも異なります。
まず、次の資料を確認しましょう。
- 退職金規程
- 退職金の見込み額がわかる通知・資料
- 企業年金の案内
- 企業型確定拠出年金の残高や受取方法
- 勤務先から受け取る退職手続きの資料
「退職時に総額でいくら受け取れるか」だけでなく、「いつ、どのような形で受け取れるか」を確認することが第一歩です。
② 額面ではなく手取り額で考える
退職一時金は、原則として給与とは別の「退職所得」として扱われ、退職所得控除が設けられています。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金等の支払者が税額を計算し、原則として確定申告は必要ありません。
一方、提出していない場合は、退職金等の支払金額に対して20.42%の所得税等が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。
また、同じ年に複数の退職金を受け取る場合や、以前に退職金を受け取っている場合は、退職所得控除の計算が異なることがあります。
使い道を考えるときは、額面金額ではなく、実際に受け取れる手取り額を基準にしましょう。
③ 退職後の収支を先に確認する
退職金の使い方は、退職金の金額だけでは決められません。
次の項目を整理し、退職後の収支を確認します。
- 60歳以降の再雇用収入
- 65歳以降の公的年金
- 毎月の生活費
- 年間の特別支出
- 住宅修繕、車、旅行などのイベント費用
- 医療費・介護費への備え
特に、退職から年金受給開始までに収入が減る場合は、その期間の生活費を確保する必要があります。
退職金を使う前に、退職後の毎年の不足額を確認することが重要です。
④ 退職金を3つの役割に分ける
退職金を一つのお金として管理すると、使ってよい金額がわかりにくくなります。
そこで、次のように分けて考えます。
- 生活費の不足を補う「生活を支えるお金」
- 医療・介護・住宅修繕などに備える「将来に備えるお金」
- 旅行・趣味などに使う「使ってよいお金」
3つの役割に分けることで、使えるお金と残しておきたいお金が見えやすくなります。
⑤ 住宅ローン返済や大きな支出は、残る資金で判断する
退職金で住宅ローンを一括返済すれば、毎月の返済負担や利息を減らせます。
一方、返済後の手元資金が少なくなると、住宅修繕や医療・介護などの支出に対応しにくくなります。
リフォーム、車の買い替えなども、支出額だけでなく、使った後に生活資金がいくら残るかを確認してから判断します。
⑥ 旅行・趣味・家族支援には上限を決める
旅行や趣味は、退職後の生活を楽しむための大切な支出です。
子どもや孫への支援も、家族にとって意味のある使い方でしょう。
ただし、気持ちが先行すると、予定以上の支出になることがあります。
生活資金と将来への備えを確保したうえで、旅行や家族支援に使える金額の上限を夫婦で決めておきましょう。
退職金を使うことが問題なのではなく、安心して使える範囲を確認せずに使うことが問題です。
⑦ 運用するお金と近いうちに使うお金を分ける
退職金を受け取ると、金融機関などから資産運用を提案されることがあります。
しかし、数年以内に生活費や住宅修繕費として使うお金まで運用すると、必要な時期に価格が下がっている可能性があります。
- 近いうちに使うお金は、安全性を重視する
- 長期間使う予定のないお金を運用対象とする
- 一度に全額を投資しない
- 自分のリスク許容度を超える商品を選ばない
運用を始める前に、運用に回さず残しておく金額を決めることが大切です。
4. 注意点:退職金を「余ったお金」と考えない
注意点1:受け取った金額をすべて使えると考えない
退職金には、退職後の生活費を補う役割があります。
大きな金額に見えても、すべてが余裕資金とは限りません。
注意点2:同じお金を複数の使い道に割り当てない
住宅ローン返済、リフォーム、車、旅行などを個別に考えると、合計額が退職金を超えてしまうことがあります。
使い道を一覧にして、合計額を確認しましょう。
注意点3:退職直後の税金・社会保険料を見落とさない
退職後は、住民税や健康保険料などの支払いが続きます。
退職直後の支出も含めて、手元に残す資金を考えます。
注意点4:急いで運用商品を決めない
退職金を受け取った直後に、まとまった金額を一度に投資する必要はありません。
商品の仕組みやリスクを理解し、生活資金と分けて判断しましょう。
注意点5:夫婦で使い道を共有する
退職金に対する考え方は、夫婦で異なることがあります。
どのくらい残し、どのくらい使うのかを事前に話し合っておくことが大切です。
5. 自分ごと化:退職金を受け取る前に確認する10の項目
次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。
- 退職金の見込み額・受取時期・受取方法を確認しているか
- 税金を差し引いた手取り額を確認しているか
- 退職後の毎月の収入と生活費を確認しているか
- 60歳から65歳までの収入空白期間を確認しているか
- 年間の特別支出やイベント費用を見込んでいるか
- 医療費・介護費・予定外の支出に備える資金を考えているか
- 住宅ローンや借入金の残高、金利、返済期間を確認しているか
- 退職金を3つの役割に分けているか
- 運用に回せる金額・期間・リスク許容度を確認しているか
- 退職金の使い方を夫婦で話し合い、キャッシュフロー表に反映しているか
このうち、特に重要なのは、1・3・8です。
- 退職金の見込み額・受取時期・受取方法を確認しているか / 3. 退職後の毎月の収入と生活費を確認しているか / 8. 退職金を3つの役割に分けているか
この3項目を確認すると、「受け取れる金額」「生活のために必要な金額」「使ってよい金額」を整理できます。
この記事を読んだ方は、まず、次の資料を用意してみましょう。
- 勤務先の退職金見込み額や退職金規程
- ねんきん定期便またはねんきんネットの年金見込み額
- 現在の生活費がわかる家計簿、通帳、クレジットカードの利用明細
そのうえで、退職金を「生活を支えるお金」「将来に備えるお金」「使ってよいお金」の3つに分け、金額を仮置きしてみてください。
6. まとめ:退職金は受け取る前に役割を決める
退職金は、受け取ってから使い道を考えるのではなく、受け取る前に退職後の生活全体を確認しておくことが大切です。
<今日のポイント>
- 退職金の見込み額・受取時期・受取方法を確認する
- 額面ではなく、税金を差し引いた手取り額で考える
- 退職後の収入・支出・資産を先に整理する
- 退職金を3つの役割に分ける
- 大きな支出は、使った後に残る資金で判断する
- 近いうちに使うお金は運用に回さない
- 夫婦で使い道を共有し、キャッシュフロー表に反映する
退職金の使い方を考える目的は、できるだけ多く残すことではありません。
生活を守るお金と、安心して使えるお金を分けることです。
ご自身の場合、退職金をどのように分ければよいか、住宅ローン返済や資産運用にいくら使えるかを確認したい方は、キャッシュフロー表で時系列に整理するとわかりやすくなります。
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出典・参考(2026年9月26日現在)
国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「金融リテラシー・マップ」
※本記事は、退職金の使い方、税金、退職後の資金計画に関する一般的な情報を提供するものです。
※実際の退職金額、受取方法、税額などは、勤務先の制度、勤続年数、過去の退職金受取状況などによって異なります。
※退職金制度や受取手続きは勤務先や企業年金の運営機関に、税金については税務署や税理士などに最新の情報をご確認ください。
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