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退職後の収入

第32回 働きながら年金をもらうときの注意点|在職老齢年金と厚生年金加入を整理する

1. はじめに:65歳以降も働くと年金が減るのか

65歳前後になると、働き方と年金について、次のような疑問を感じる方がいます。

  • 65歳以降も働くと年金が減るのでしょうか
  • 給与をもらいながら、年金も受け取れるのでしょうか
  • 厚生年金保険料を払い続ける意味はあるのでしょうか
  • 年金が減らないように勤務時間を短くした方がよいのでしょうか

 働いているからといって、老齢年金を受け取れなくなるわけではありません。
ただし、給与や老齢厚生年金の額によっては、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になる場合があります。

働きながら年金を受け取るときは、支給停止の有無に加えて、働いて得る給与や、厚生年金への加入が将来の年金額に与える影響も考える必要があります。

この記事では、在職老齢年金の仕組みと、65歳以降も厚生年金に加入して働く場合の考え方を整理します。

2. 結論:給与・今受け取る年金・将来の年金をあわせて考える

在職老齢年金という言葉を聞くと、「年金が減らない働き方」をしないと損をしてしまうような気になります。
しかし、働き方を決める際には、次の三つをあわせて確認することが大切です。

  1.  働いて得る給与
  2.  今受け取る老齢年金
  3.  厚生年金への加入によって将来の年金額に反映される分

在職老齢年金によって老齢厚生年金が一部支給停止になっても、給与を含めた収入全体は別に確認する必要があります。
また、厚生年金に加入して働いた期間は、将来の老齢厚生年金額に反映されます。

「年金を減らさないこと」だけを目標にせず、給与と年金をあわせた手取り収入や、ご自身が希望する働き方から判断しましょう。

3. 基本知識:在職老齢年金と厚生年金加入を理解する7つの視点

① 働きながらでも年金は受け取れる

受給要件を満たしていれば、給与を受け取りながら老齢基礎年金や老齢厚生年金を受け取ることができます。
ただし、厚生年金に加入して働く場合などは、給与等と老齢厚生年金の額に応じて、老齢厚生年金の支給額が調整されることがあります。

「働いていると年金を受け取れない」と一律に考える必要はありません。

② 在職老齢年金とは何か

在職老齢年金は、働きながら老齢厚生年金を受け取る方について、報酬と年金の額に応じて老齢厚生年金の一部または全部を支給停止する仕組みです。

ここで押さえたいのは、在職老齢年金による支給停止の対象は老齢厚生年金であり、老齢基礎年金は対象にならないことです。

年金の見込み額を確認するときも、老齢基礎年金と老齢厚生年金を分けて見ましょう。

③ 2026年度の支給停止調整額は月65万円

2026年4月から制度が改正され、2026年度の支給停止調整額は月65万円です。
改正前の2025年度は月51万円でした。

ただし、「給与が月65万円を超えたら年金が減る」という意味ではありません。
判定には、次の二つの合計額を使います。

老齢厚生年金の基本月額 + 総報酬月額相当額

基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を12で割った額です。
総報酬月額相当額には、標準報酬月額に加え、その月以前1年間の標準賞与額を12で割った額も含まれます。

月給だけで判断せず、老齢厚生年金と賞与を含めて確認することが必要です。
なお、支給停止調整額は毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。

④ 基準額を超えても、すべての年金が止まるわけではない

2026年度は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えると、超えた額の2分の1が老齢厚生年金から支給停止になります。
支給停止額が老齢厚生年金の額以上になれば、老齢厚生年金は全額支給停止となります。

例えば、総報酬月額相当額が60万円、老齢厚生年金の基本月額が10万円の場合、合計は70万円です。

  • 70万円 - 65万円 = 5万円
  • 支給停止額:5万円 ÷ 2 = 2万5,000円
  • 支給される老齢厚生年金:10万円 - 2万5,000円 = 7万5,000円

この例でも、在職老齢年金の仕組みによって老齢基礎年金が支給停止になることはありません。

⑤ 65歳以降も厚生年金に加入して働く意味がある

65歳以降、70歳未満で厚生年金に加入して働く場合は、厚生年金保険料を支払います。
その加入期間は、将来の老齢厚生年金額に反映されます。

老齢厚生年金を受けながら厚生年金に加入している方については、毎年9月1日時点の加入状況などをもとに、加入実績を反映して10月分から年金額を見直す「在職定時改定」があります。

保険料による今の手取りへの影響と、加入期間が将来の年金額に反映されることの両方を確認しましょう。

⑥ 70歳以降は厚生年金保険料を負担しない

原則として、70歳になると厚生年金保険の被保険者資格を失います。
そのため、70歳以降の勤務については厚生年金保険料の負担はなく、その期間は通常、老齢厚生年金を増やす加入期間にもなりません。

一方、70歳以降も厚生年金の適用事業所で働く場合は、保険料を負担しなくても、報酬に応じて在職老齢年金による支給停止の対象となる場合があります。

「保険料を払わないこと」と「年金が支給停止にならないこと」は、分けて確認する必要があります。

⑦ 働き方を変えた場合の家計を比較する

働き方を考えるときは、例えば次のケースを比べてみましょう。

  • 65歳で完全に退職する
  • 65歳以降も働き続ける
  • 勤務日数を減らして働く

比較するのは年金額だけではありません。
給与、年金、税金・社会保険料を引いた手取り、資産の取り崩し、自由に使える時間なども確認します。

働き方ごとの収支と資産の推移をキャッシュフロー表で比べると、ご自身の生活に合う選択を考えやすくなります。

4. 注意点:「年金を減らさないこと」だけで働き方を決めない

注意点1:65万円を給与の上限だと思わない

2026年度の月65万円は、給与そのものの上限ではありません。
老齢厚生年金の基本月額と、賞与を反映した総報酬月額相当額の合計で判定します。
月給だけを見て、支給停止の有無を判断しないようにしましょう。

注意点2:老齢基礎年金まで減ると思わない

在職老齢年金による支給停止の対象は、老齢厚生年金です。
老齢基礎年金は、この仕組みによる支給停止の対象外です。
ご自身の年金額を、老齢基礎年金と老齢厚生年金に分けて確認しましょう。

注意点3:支給停止を避けるためだけに収入を減らさない

老齢厚生年金の支給停止を避けようと勤務日数を減らすと、給与も変わります。
年金の支給停止額だけでなく、給与と年金をあわせた手取り収入や、希望する働き方を比較することが大切です。

注意点4:厚生年金保険料を「損」とだけ考えない

厚生年金保険料を支払うと、今の手取りには影響します。
一方、65歳以上70歳未満で加入を続けた期間は、在職定時改定などによって将来の年金額に反映されます。
今の負担と、将来の年金額への反映をあわせて確認しましょう。

注意点5:支給停止調整額を固定した数字だと思わない

2026年度の支給停止調整額は月65万円ですが、毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。
働き方や年金の受け取り方を検討する際は、その年度の基準額を確認してください。

5. 自分ごと化:働きながら年金を受け取る前に確認したい10の項目

次の項目について、ご自身の状況を確認してみましょう。

  1.   何歳から老齢年金を受け取る予定か
  2.  老齢基礎年金と老齢厚生年金の見込み額はいくらか
  3.  65歳以降の給与はいくらか
  4.  賞与はあるか、ある場合はいくらか
  5.  厚生年金に加入する働き方になるか
  6.  在職老齢年金による支給停止はありそうか。ある場合の見込み額はいくらか
  7.  税金・社会保険料を引いた手取りはいくらか
  8.  働き続けることで、将来の年金額がどの程度変わるか
  9.  何歳まで、どの程度働きたいか
  10.  働いた場合と完全に退職した場合のキャッシュフロー表を比較したか

このうち、最初に話したいのは、2・6・10です。
2.年金の内訳と見込み額 / 6.支給停止の有無と金額 / 10.働き方による家計全体の違い

支給停止を確認するには、給与と賞与の情報も必要です。
老齢厚生年金の見込み額、勤務先での給与・賞与の条件をそろえ、年金がいくら止まるかに加えて、働いた結果、家計全体がどう変わるかを確認してみましょう。

6. まとめ:年金の支給停止だけで働き方を決めない

働きながらでも、受給要件を満たせば老齢年金を受け取れます。
ただし、報酬と老齢厚生年金の額によっては、老齢厚生年金が一部または全部支給停止になる場合があります。

働き方を考えるときは、今の給与と年金、将来の年金額、家計への影響をあわせて見ましょう。

<今日のポイント>

  • 働きながらでも老齢年金は受け取れる
  • 在職老齢年金で支給停止の対象となるのは老齢厚生年金
  • 老齢基礎年金は、在職老齢年金による支給停止の対象外
  • 2026年度の支給停止調整額は月65万円
  • 判定には、老齢厚生年金の基本月額と賞与を含む総報酬月額相当額を使う
  • 基準額を超えた額の2分の1が、老齢厚生年金から支給停止になる
  • 65歳以降も厚生年金に加入した期間は、将来の年金額に反映される
  • 70歳以降も働く場合、保険料負担がなくても支給停止の対象となることがある
  • 支給停止調整額は毎年度改定される
  • 給与・年金・手取り・資産の取り崩しを含めて働き方を比較する

65歳以降に働くかどうかは、「年金が減るか」だけでは決められません。
働くことで得られる給与、今受け取る年金、厚生年金への加入による将来の年金額への反映、そしてご自身がどのくらい働きたいかをあわせて考えましょう。
「65歳で完全に退職する場合」と「65歳以降も働く場合」などをキャッシュフロー表で比べると、働き方による退職後のお金の違いを確認しやすくなります。

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出典・参考(2026年10月2日現在)

日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」
日本年金機構「60歳以降も引き続き勤めます。勤めていても年金は受けられますか。」

※本記事は、2026年10月2日現在の公表情報をもとに、一般的な情報を提供するものです。
※支給停止額や年金の見込み額は、ご自身の年金額、報酬、賞与、加入状況などによって異なります。
※支給停止調整額や制度の内容は変更される場合があります。実際に働き方を検討する際は、日本年金機構などの最新情報をご確認ください。

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